甘く熱いキスで

運命の勝負

「ユリア、本当にいい加減にしないと俺も本気で怒るぞ」
「もう怒っているじゃない」

ユリアはアルフォンスの胸を押し返して身体を離した。そしてライナーに向き直ろうとする。しかし、アルフォンスがそれを許さず、ユリアの身体は再び彼の腕の中に閉じ込められた。

身体を捩っても腕が解けることはなく、ユリアは眉を顰めた。

「ライナー・カぺル。お前、カぺル家の養子だろ?ユリアの婚約者候補としてすら名前が挙げられていないのに、ユリアと2人で食事なんていい身分だな」
「私は、ユリア様にお誘いいただいて参りました。お断りすることは失礼にあたると思いましたので」

ライナーの冷静な切り返しに、アルフォンスはフンと笑う。

「それで、ユリアにプロポーズされて“お断りすることは失礼にあたる”から受けるって?ふざけるな、これはお前やユリアだけの問題じゃない!」
「えぇ。承知しております。ですから、私もユリア様に確認しました。聞いていらしたのなら、アルフォンス様もご存じなのではないですか?」

今、ライナーはどんな表情をしているのだろう。口調は丁寧で柔らかい普段と変わらないが、アルフォンスの盗み聞きを遠回しに咎める言い回しは、先ほど受けた冷たい視線を思い出させる。

「アル!もう離して!ライナーとのことは、私の意思なの」
「俺も俺の意思は譲れない。ユリア、なんでそんなに形にこだわるんだよ?キスで運命が決まるなんて、あり得ない。もっと大事なことがあるだろ?」
「ないわ。私にとっては、キスは大事な結婚の決め手の1つだわ。アルの価値観を押し付けるのはやめて」

ユリアが顔を上げてアルフォンスを睨みつけると、アルフォンスもユリアを鋭い目つきで見下ろしていた。
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