興奮冷めやらぬ会場に照明がつくと、私はすぐに荷物をもってホールを飛び出した。

高瀬を探そう。
一ノ瀬先生が、種本月子が、そして秋音さんが、私の背中を押してくれているのがわかる。

秋音さんのヴァイオリンの音がまだ耳に残っているうちに、この人込みの中から高瀬を見つけ出したい。
そして、この気持ちを伝えたい。

だけど本当にこんなにたくさんの人の中から、たったひとりを見つけることができるだろうか。
家に帰れば会えることはわかっていたけど、私はあの部屋で待つよりも、どうしても今、自分から高瀬に会いに行きたい。

ふと秋音さんの言葉が頭を過った。


『ハルちゃんはそこが大好きで、しょっちゅうパーティーを抜け出して居眠りしてるんだから』


それを思い出した瞬間、高瀬はきっとそこにいるはずだと、確信に近い予感がした。
私はたまたま近くにいた老夫婦に飛びつくような勢いで話しかける。


「あの、すみません! ここに英国式の立派な庭園があるって聞いたんですけど、どこにあるか知っていますか?」

「庭園? ああ、あれはね……」


ご夫婦は顔を見合わせて不思議そうな顔をしたけれど、必死な様子の私にその場所を丁寧に説明してくれた。


「ありがとうございます」


私の勢いに目を丸くするふたりに頭を下げ、教えてもらった方向を目指して走り出す。

会場を出ると、熱気であつくなった頬が夜風に吹かれて冷えていく。

秋音さんのつくりだした浮世離れした世界から、少しずつ現実に引き戻されるように頭が冴えた。
それでも、私の心の中にある気持ちだけは冷めることを知らない。

目指す場所に辿り着き、一度足を止めて深呼吸をする。
葦原館の敷地内はどこもかしこも別世界のようだけど、目の前に広がる庭園はまた別格だった。

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