【完】女優橘遥の憂鬱
屈辱・憂鬱な日常
 私の撮影は月一度。
安全日の中の特に安全な日だけだった。


そう……
又監督の命じられるままに遣られるだけの撮影。

でもそれらの人達は、きちんと病気まで調べられているようだ。

カメラマンが提案書を出して、進言してくれたそうだ。

監督も納得してくれたらしい。
生で遣らせて、性病を貰いたくないからだ。

監督は金儲けのことしか頭にないようだった。
それでも同意してくれたらしい。


エイズや梅毒、毛蝨。

性交渉によって感染する病気は多い。

それらを防ぐために、色々な手段が使用されたようだ。


スキンを使えばその問題は軽減するらしい。

でも監督は、何も付けさせないで遣らせることに拘っていた。
だから、安全な人だけを選ぶことにしたようだ。


使い捨てるより金になるとでも思ったのか?
借金を取り立てるためには近くに置いておいた方が得策だと考えたのか判らないけど……




 私は監督の言い付け通りに大学を辞め、新事務所の裏にある小さなアパートでカメラマンの隣の部屋で生活するようになった。


あの撮影の後、本当に妊娠しなかった。
だから以前所属していた事務所が安全日を教えてくれたと言う監督の言葉を信じてしまったのだった。



あのグラビアやビデオを見たらきっと反省して助けに来てくれる。
私はそう思っていた。


でも幾ら待っても、何もなかった。
だから仕方なく此処で暮らすようになったのだ。



其処から前にある事務所へ行き、雑用処理の手伝いをさせられていた。


目が覚めたらそのまま布団の中で体温計を舌の上に置く。

それを毎日、グラフに付ける。

それは以前所属していた事務所でもやらされていた。
だから苦痛に感じることはなかった。


私の体調管理のためには必要なんだって。


私はそれが安全日を知るためだと言うことも知らされずにいた。

監督はそのグラフを見て、私の二十歳の誕生日がその中に含まれていることを知ったようだ。




 安全日の見分け方は、基礎体温で判るらしい。

低温から高温に切り替わる前後五日間が特に危険なようだ。


危険日は、生理開始から四日から排卵日の二日後まで。
何故なら排出された卵の寿命が、どんなに長くても二日だからだそうだ。


月経の周期が決まっている人なら、生理の始まる十日前が最も安全な日と思っても大丈夫のようなのだ。


< 16 / 123 >

この作品をシェア

pagetop