右隣の彼

残業中に・・・・

珍しく、今日は残業・・・
課長から先日提出した企画書を書きなおせと言われた
アイデアはいいが内容が薄っぺら過ぎるらしい・・・
再提出期限が明日なので今日中になんとか書き直さないと間に合わない。
誰もいない部署で一人PCと向き合いう。
聞こえるのは溜息とキーを叩く音。

思った以上にうまくまとめられなくて時間だけが過ぎて行く。

げっ・・・もう9時?

気付けばお昼から何も食べてない。
たくさん食べれば眠くなるし、何か買いに行くのもな~~
だからと言ってこのまま何も食べないのはもっとよくない様な気もする。
食べる食べないだけでこんなに悩むくらいなんだから
納得できる企画書なんか書けるわけがない。
わかっているだけに虚しくなる。

少しでもやる気が出るように糖分はないかな~と
机の引き出しを開けるが
期待していた飴は1こも入ってなかった。

女子力すらなくなっている・・・・
ここで働く女子社員の机の引き出しには大概甘いものが入ってる。
飴やチョコ、箱に入ったスナック菓子
どちらかというと私はそっち側ではなくもらう側になってる。

新発売のお菓子があると大概誰かが買ってきてみんなで味見をする。
だからもらう側の私の引き出しの中は全然かわいらしくないし
最低限の物しか入ってない・・・

「あ~~お腹が減っては企画書も書けない!」
誰もいない事をいい事に大きな声で叫んでしまった。

だが・・・・
ぐっ・・というなんか人の声の様な音が聞こえた。
何か物を落したわけでもないし・・・自分以外誰もいないのに・・
一気に背筋が寒くなる。
でも、怖いもの見たさも先だってイスと一緒に
音のする方を向くと・・・・

「せ~んぱい!お疲れ様です!」
そこにはTシャツとジーンズのめちゃめちゃカジュアルな岸田君が立っていた。

「え?どうしているの?」
スーツなら残業?とでも言えるが今の格好はどう見たって仕事じゃない。
岸田君はにこにこしながら近づいてきて私の目の前にビニール袋を差し出した。
「はいこれ・・・差し入れです」
「差し入れ?」
岸田君は自分のイスに座り少しだけ私の方に寄ってきた。
「たまたま会社の前を通ったら灯がついているのが見えて・・・今日課長にダメだしされてたから
もしかして先輩がいるかなって思って・・・」

寄ったにしてもなんでコンビニの袋を・・・・
私はコンビニ袋の中を覗いた。
そこには私のよく飲むブラックの缶コーヒーとサンドイッチが入ってた。
「これ・・・・」
袋と岸田君を交互に見ると
「いつも先輩には仕事の事もプライベートな事もお世話になってるから
 日ごろの感謝をこめて・・・・といっても少なすぎますけどね。お腹減ってるんでしょ?
 食べてください」

いつもは私が面倒みてあげてる方だけどたまにこうやってさりげなく優しくされると
むずがゆくなる。
「あ・・ありがとう・・」
もっと自分の気持ちを素直に出せたらいいのに
こういうのに慣れてないから…女子力も下がる一方なんだよね。

「ところで岸田君どこかに行ってたんでしょ?もういいの?」
「彼女と・・・ご飯食べに行った帰りです」

なるほどね・・・
彼女といるときはこういうラフな服装なのね・・・・
サンドイッチ片手にまじまじと岸田君を見てると目がバチッとあう。
「な・・な・・なに?」

恋愛感情を持っていなくてもこんなイケメンと目があっちゃったら
普通はドキドキするでしょ~~
しかも普段と違う普段着の岸田君は普通にかっこよすぎた。
だが、岸田君の目は私を通り過ぎてPC画面で止まった。
「先輩席チェンジしてもらえますか?」
イスに座ったまま移動すると
岸田君はキーボードを叩き始めた。

「ちょ・・ちょっと岸田君何やってるの?」
サンドイッチを持ったまま自分のPCを覗き込むと岸田君は
私の企画書を作っていた。
「これだけ時間があっても出来てないんだ。このまま2時間3時間ここに
いても企画書が出来上がるとはおもえないのでお手伝いしてるんですよ」
物凄い速さでキーを叩く。
私の残業は何だったのかと思うほどの速さで・・・

********************

「出来ました・・・・読んでください」
プリントアウトされた企画書を手渡されるまでの時間はなんと
私の夜食を食べ終えるまでの時間とほぼ同時だった。
内容も課長にダメ出しされた部分がうまくまとめられている。

「・・・・なんで?」
「はい?」
「なんでこんなにうまくまとめれたのよ。この企画岸田君にみせたわけじゃなにのに
なんでそんなにつらつら書けちゃうのよ」
岸田君は軽く伸びをすると私を見つめ

「これからも先輩にはいろいろと恋愛相談にのってもらいたいんでね・・・・
俺の恋がうまくいく為ならなんだってやりますから!」

「あっ・・・そう・・」
それかよ!
人の恋愛相談の相手してるようじゃ・・・私に素敵な彼氏が出来るのはまだ先だと
痛感した・・・・
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