右隣の彼

後輩だけじゃだめなんですか?

「一人の男って・・・岸田君は男でしょ?」

「でも単なる後輩もしくは弟ぐらいにしか俺の事思ってませんよね。」
「いやいや、そりゃあ後輩でしょ?それ以外何があるって言うの?」
「俺は先輩の事、単なる先輩なんて思ってなんかいませんでしたよ。」
なんだか只ならぬ空気を感じた私は何とかこの話を終わらせたく
冗談で返そうと試みたが、
私の事をよ~く知ってる岸田君には通用せず、話も手も離してもくれなかった。

先輩なんて思っていなかったら何だって言うの?
万が一女としてとか言ったところで
岸田君にはあんな綺麗な彼女がいるじゃない。
「じゃあ・・・私は何なのよ。岸田君の先輩って以外になんだっていうの?」
岸田君は私の顔をじっと見つめると、はぁ~と溜息をついた
溜息つかれる様な事を言ったつもりはない。
「ちょっと作戦変更すっか・・・」
ボソッと言った岸田君の声は私の耳には入ってこなかった。

「ん?何か言った?」
「思ったよりほっとけないって言ったんです」
「ほっとけない?」
「仕事は出来るけどプライベートは少々残念なところがありほっとけないんです。
今日みたいな事があれば、いつでも俺を頼ってください。」
いつから立場が逆移転してしまったのだろうか、
「だったら岸田君は仕事は残念だけど、プライベートは充実してるわよね。」
横目で岸田君を見るとバツの悪そうな笑みを浮かべていた。


「ところで先輩腹減ってません?さっき全然食べてませんでしたよね。
 俺も何だか食べれなくて・・・なんか食いにいきませんか?」
何なの急に話がガラッと変わるこの切り替えの早さは!
「あのねー岸田君ー」
「ほらほらイライラしてると余計お腹が減りますよ。
 お説教も愚痴も食べてからじっくり聞きますから」
じっくりって私がそんなに愚痴やお説教を言うと思ってんの?
反論しようと口を開きかけたが
悲しいかな、お腹は正直で私の声よりも先にお腹の虫がギュルっと
岸田君に聞こえる程の大きさで鳴った。

岸田君はそんな私の手を強く握ると何も言わずに
歩き出した。
私は岸田君に引っ張られるようについていったのだが
岸田君の背中が小刻みに震えてるのがわかった。

もう!笑うなら声を出して笑ってよ!
それ気遣いになってないから!
私は震える背中を睨みつけた。
 
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