右隣の彼

賭け

「は?!別れたの?」
「もしもの話ですよ・・・・俺が彼女と別れたって言ったら
 どう思います?うれしい?それとも残念?」
おにぎり食べながら言う事なのかと思うんだけど、岸田君は全く
表情に変化がない。
「・・・・どちらでもないわよ。変な質問しないで食べたら帰るわよ」
岸田君は何も言わず私の顔をじっと見つめると
残りのおにぎりを口の中に放り込んだ。

おにぎりを食べ終わると岸田君は伝票を持って先に席を立った。
私も慌ててバッグを持つと岸田君のいるレジへと向かった。
バッグから財布を取り出すと岸田君の横に立ちお金を払おうとお札に
手をかけたが、岸田君の手がそれを拒んだ。
会計を済ませ店を出るが、食べたのはほとんど私なにの
御馳走になる訳にもいかないから財布からお札を出した。
「岸田君。割り勘ならまだしも御馳走になる訳にはいかないわ。
 これ、私の分はちゃんと払うから」
岸田君の目の前でお札を差し出すが、受け取ろうとしない。
「岸田君・・・借りを作りたくないの。お願い」
少々かわいくない言い方だけどこのぐらい強くな言わないと
受け取ってくれそうになかった。
岸田君はそんな私を見ながら軽く溜息をついた。
「先輩かわいくないですよ。こういうときは『ありがとう』って
 そのお札財布にしまうもんですよ。」
「可愛くなくて結構よ。はい!受け取って」
ここまで来るともう意地の張り合いだった。
お店の前でお金を差し出す、押し戻すが繰り返しているのは
体裁が悪い。
でも岸田君てこんなに頑固だったのかと思った。
私に至っては元々頑固なのは社内でも知られてるから
否定はしない。

そんなやり取りをずっと続けていたんだけど
岸田君が急に押し戻すことを辞めた。
よし!これで受け取ってくれる。そう思ったのだが・・・
「わかりました。ではこうしましょう!賭けをしません?」
「賭け?」
岸田君は口角を上げながら話し始めた。
「そう!賭けに先輩が買ったら俺、素直にそのお金受け取ります。」
「じゃあ私が賭けに負けたら?」
岸田君はいたずらっ子の様な笑みで私を見た。
「先輩がもし賭けに負けたら・・・俺のお願い1つ聞いてもらます」
「はぁ?お願い?なにそれ・・・私が負けたらお金受け取らないじゃダメなの?」
「・・・それじゃぁなんかつまんないからさ。先輩が賭けに負けたら
 俺のお願い1つだけ聞いてください。そんなへんなお願いじゃないから
 身構えなくてもいいですから・・・」
どうやら岸田君には私が身構えている様に見えたらしい。
私は慌てて否定した。
「わ・・・わかったわよ。で?賭けって何するの?」
上目遣いで岸田君を見ると
「先輩、あの目の前のコーヒーショップ見てください」
岸田君の指さす方をみると大型コーヒーショップがある。
私もよく利用する大好きなコーヒーショップだ。
「あそこにロングヘアーの女の人が一人で座ってますよね。」
確かに座ってる。
コーヒーを飲んではスマホを弄ってる。きっと誰かと待ち合わせ
しているんだ。
「あの人、きっと誰かと待ち合わせしていると思うんだけど・・・
 誰を待っているか当てましょう!女性かそれとも男性・・・
 先輩どっちだと思います?」
「はぁ?どっちって・・・岸田君はどっちよ」
「こういう場合やっぱり先輩から言ってください。俺は先輩と逆を
 選びますから。じゃなきゃ賭けになんないでしょ?」
・・・・どっちだ?
女性は、コーヒーを少し飲んではスマホを覗いている。
服装は・・・カジュアルで特別おしゃれをしている訳ではない。
会社の帰りに誰かと待ちあわせ・・・多分そんなとこ・・でも
それが男か女か・・・そんなのわかる訳ないじゃない。
真剣に考えている私を岸田君は楽しそうに見ているのがわかった。
「何笑ってんのよ!」
「だって・・・2択でこんなに悩むのかなって思ったら
 笑うしかないでしょ?」
「じゃあ岸田君は決めたの?」
「決めてますよ」
余裕の笑みがムカつく。
「じゃあ!先に言えばいいじゃない。」
「いいんですか?僕が先に答えても・・・」
いつもせんぱ~いって甘えいる岸田君の姿はない。
思いっきり上から目線の岸田君だった。
「あああ!私が先に答える。男!男を待ってる」
「男でいいんですね」
まるで答えをわかっているかのような言い方・・・自分の
選んだ答えに自信がなくなるようだったが
私は答えを変えなかった。
「じゃあ・・・俺は女性で・・・」

このまま女性の相手がいつ来るのかわからないのにここで
ずっと待ってるのは疲れるからとコーヒーショップの中で待つことにした。

待つ事20分
女性の相手がやってきた。

「負けた・・・・・」
女性が待っていた相手は女性だった。
恐らく女友達だ。
遅れた友達が手を合わせながら謝っている姿を
私は落胆しながら見ていた。
勝者の岸田君は口をにやつかせて笑っていた。 
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