屋形船、ゆるりゆるりと。
屋形船
辺りは月に照らされた波がたゆたうばかりで、船縁に打ち寄せては砕けるじゃぶんじゃぶんという音が私の耳に届きます。


私は長い櫓をぎっちらぎっちら漕ぎながら、広い池の真ん中辺りを漂っていました。



池の縁の竹林がサワサワと鳴り、その向こうからは祭りの笛が聞こえてきます。
ぼんやりとした明かりが、竹林の陰を行ったり来たりしています。


屋形船には提灯がぐるりと付いていて、そのうちの二つ三つはロウソクが切れています。


根付けの先につけた鈴が、ちりん、と鳴きました。

・・・ちりん・・・、・・・ちりん・・・
ちりん、ちりん、ちりん

鈴は段々と速く、激しく鳴きます。

ちりりりりりん!!!!


鈴が、振り切れてしまうほどの激しさを見せました。

私は水面を除きこみ、櫓を突き立てました。

ぐるんぐるんと水面をかき混ぜてから、櫓を引き抜きます。


「重っ! 不摂生は世の罪である!」

櫓を重くする原因が、水面に浮上してきました。



ざっぱあぁぁぁん!!
水飛沫を撒き散らし、櫓につかまったキツネ面を被った男が、歯の根をガチガチと鳴らしています。
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