エンジェル
☆☆☆
 月が変わった四月の空は群青色だった。
「絵の具で塗ったみたい」
 幼馴染であるユミリが空を見上げながら言った。十歳になったばかりの翔太は彼女から放たれる目の輝きに一瞬、心を奪われた。それがどういった感情で、どういう回路で涌き起こるものかはわからない。ただ、惹きつけるものがあった。五歳で母親を病気でなくした翔太にとって、女、という一単語は奇妙で不思議な物体として認識している。よく喋り、よく動き、表情がメリーゴーランドのようにぐるぐる様変わりする。
「翔太!女を理解するなんてお前には早い!」父親である哲也がいった。男手一つで育てる器量には感謝するが、女、についての持論解釈がめんどうで話半分に聞かれていることを本人は気づいていない。
「理解するつもりはない」
「あのな、それでもある程度は理解していかなきゃいけないんだ」と哲也。
「なんで?」
「女ってのはな、天使だからな」
「それはないと思うよ」と冷静に翔太が切り返す。
「お前の最大の欠点は、圧倒的経験不足、だ!」
「そんな、経験したくないね」
 なんだとお、と哲也が翔太の頭をくしゃくしゃにし、猫のようにじゃれてきた。日々の哲也とのコミュニケーションは楽しかった。
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