ボディトーク
誘惑の夜
うっ、目が痛い。

今日は夕方まで外に出ていたため、デスクワークが嫌というほど溜まっていた。

副編集長なんて肩書きが付いても、自分の担当する業務もあるわけで、仕事が容赦なく山積されている。

私、並木美知佳(なみき みちか)は、片手で自分の目頭を押さえながら、パソコンのマウスを握っていた。

今日は珍しく『peach』編集部のメンバーも帰ってしまい、気が付けば12階フロアでも私の席だけが、スポットライトのように蛍光管で照らされていた。

こんなオフィスのスポットライトなんて、と溜め息を吐く。

編集部の壁に取り付けてあるデジタル時計を見ると、時刻はPM11:13になっていた。

キリが良いからもう帰ろうと、肩をコキコキ回していると、スマホがブーッブーッと震え出した。

電話の主は、愛犬ハル、じゃなくて私の大切な年下の男(ひと)、陽希(はるき)からだった。

『美知佳(みちか)さん、家?』

陽希の声の後ろからは、微かにクラッシック音楽が聞こえて来る。

「ううん、まだ会社だけど。そろそろ終わろうかと思って」

『ラッキー。あのさ、俺のお願い聞いてくれる?』

可愛い声でねだる陽希に、何か裏を感じるのは私の気のせいだろうか。

「聞けることと聞けないことがあると思う、けど」

『そんな難しいことじゃないよ。今、スタジオに居るんだけど、ちょっと来てもらえないかな』

「え、スタジオって。ハル仕事中でしょ?」
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