バターリッチ・フィアンセ
●優しい執事の腕の中

朝早く、私に何も言わずに出て行った昴さんを、部屋のベランダからこっそり見送る。

その姿が見えなくなると、私は部屋のテーブルの上に目をやった。


たっぷりの粉糖とメープルシロップのかかった、フレンチトースト、それに生のオレンジを添えた、私のための朝食が今日もちゃんと用意されている。


もしも別の女の人に会いに行くのなら、わざわざそんなことしないわよね?

そう思いたいところだけど、昨夜の昴さんには少し引っかかるところがあった。


仕事中あんなに突っかかってきていたから、私は当然“お仕置き”があるものと思って、ドキドキしながら布団の中にいたのだけど……



『そいや、今朝も寝坊したんだっけ、織絵。でもまぁ今日は大目に見る。開店前には一応厨房来てたもんな』



……正直なところ。たぶん、私、期待していたんだと思う。

昼間不安にさせられた分、たくさん触れてもらって、安心したかったんだと思う。

だけど、昴さんがくれたのは、『おやすみ』と言っておでこに落とした軽いキスだけ。


用意されたフレンチトーストを口に入れ、唇についてしまったとろりとしたシロップを舐めとりながら、私は思う。


「……甘い」


こういうキスが、欲しかったんだ、私。甘ったるくて虫歯になりそうな、甘いシロップみたいなキス。


昴さんは、くるみパンを渡す相手とそんなキスを……?

――だめだわ、私、また疑ってる。


生のオレンジを口に放り込んでいやな妄想を振り払うと、私はスマホを取り出して自宅に連絡し、てきぱきと外出の準備を始めた。


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