私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
◆第5章:新企画始動!と、海男との出会い
「やり直し」
「はい……」

 姫川編集長と2人きりで食事をしてから数週間が過ぎたけど、今、私の前にいるのは眉間の皺を深ーく寄せて口調もとーっても厳しいいつもの姫川編集長で、一緒に食事をした日に見せた優しい目で私を見た笑顔は幻だったんじゃないかと思う。

 突き返された原稿の下書きの用紙には赤ペンで訂正の箇所を指示されたマークがいっぱいで、まるで私はテストの返却をされて落ち込む生徒で、姫川編集長は勉強に厳しい先生のような状態で、水瀬編集長ならもっと優しい言葉で声をかけてくれるけどなって、口から出そうになる本音をグッと堪えた。

「次の企画書の提出は出来そうか?」
「お昼前までには提出します」
「下書きと企画書の提出が終わったら、取材先の店へのアポイントを頼む。連絡先はこれだ」
「分かりました。先ほど姫川編集長が席をはずしている際に、A書店から再来月号の『Focus』の告知に使うポスターについて相談したいことがあると連絡がきました」
「あそこ(A書店)はポスターの幅が広くて貼れねーとか言ってくんだよな、ったく。幅が狭かったら文字のバランスも悪くなるし、考えれば分かるのにな」

 姫川編集長はぶつぶつと不満を呟くも、机の上にある受話器を持ち上げて電話をかけ始める。

「よし!」

 気合を注入するために両手で頬をペチッと叩いて、赤で一杯になった原稿のやり直しに取り掛かる。
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