桜まち 


マンションの自宅まで、しっかりと抱きかかえられたまま送ってもらい、ゆっくりとその腕から降ろされるとなんとも名残惜しい。

「ありがとうございました」

ぺこりと頭を下げてお礼を言うと、こっちこそ気づかなくて悪かった。と逆に謝られてしまって。とんでもないとブンブン首を振った。
すると、ふわりと優しく大きな手が私の頭に置かれる。

「新しいヒールもいいけど、無理しないほうがいいぞ」

深夜でも爽やか過ぎるくらいの笑顔で言われて、望月さんの手が置かれたままの頭の天辺からカーッと熱くなっていき、ドキドキも止まない。

どうしよう。
好きだーーーーーーっ!! て叫びたいくらいだよ。

近所迷惑だけどね。

「足が治ったら、またラーメン行くか?」
「はい。是非っ」

思わずテンション高めで声を張ると、しーっと言って苦笑いされてしまう。
私は、肩をすくめ口元に手を持っていった。

「じゃ。お休み」
「はい。おやすみなさい」

その夜、足の痛みなんて忘れるくらいの幸福感にニタニタしながら、私は幸せな眠りについた。


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