桜まち 
縁遠いワード




  ―――― 縁遠いワード ――――



櫂君にお願いされた通り、自宅マンションに戻ってからお祖母ちゃんに電話をかけてみた。

「あ、お祖母ちゃん。ちょっと訊きたいんだけど。私のところのマンションて、空きある?」
「んん? ああ。あったけど、なくなったわ」

「え? なにそれ?」
「先週までは菜穂子のお隣さんが近々引っ越すから空く予定だったけれど、すぐに次の人が見つかってしまってね」

「そっか。ここって人気あるんだね」
「そりゃあね。駅には近いし、商店街までもすぐ。最寄り駅は主要路線ときたら、人気だろうよ」

「もしかして。ここの家賃て、結構高いの?」

家賃無しで住んでる孫の私は、ここの地代がいくらか知らない。

「高いよぉ。訊きたいかい?」

お祖母ちゃんは、クククッとイタズラに笑う。
ちょっと吹っかけているような言い方だけれど、本当に高かったら怖いな。

「いや、いい。知らないでおく」

私が慌てて遮ると、それでいい。と笑っていた。
変に知ってしまったら、肩身が酷く狭くなりそうだ。

櫂君には残念だけれど、空きがないんじゃしょうがない。

それにしても、お隣さん、引っ越しちゃうんだ。
余り会ったことはないけれど、確かちょっと年配の独身OLさんだったはず。

結婚でもするのかな?
だとしたら、メデタイお話よね。

そういえば、以前同期の子が結婚退職をする時に、本当におめでたい。と手を叩いて拍手していたら櫂君が羨ましくないの? なんて訊いて来た事があったな。

私には縁遠い“結婚”というワードは、余りにもかけ離れすぎていて、羨ましいとか妬ましいとかいう感情など一切浮かばず。
ただ素直に、おめでとうという感想を抱かせる。

だって、人が幸せになるって、いいじゃない。
それだけでたくさんの笑顔が生まれるんだよ。
そんな素敵なことって無いと思うのよね。

そん私を櫂君が微笑ましい、といっていた。

それって、いい意味なのかな?

今度、訊いてみようかな。



< 15 / 199 >

この作品をシェア

pagetop