桜まち 


「なんなんでしょうね……。こう、胸の中がモヤモヤッとして、イライラッとして。うまく説明できないんですよねぇ」
「モヤモヤに、イライラ?」

「はい。たとえばー。今日、櫂君の同期の子が来てですね。あ、櫂君て、この前望月さんに抱えてもらってタクシーに乗せた後輩君なんですけど」
「ああ、彼ね。ゆかいな仲間だっけ?」

「そうです、そうです。そのゆかいな飲み仲間です」

応えながら笑っていると、望月さんも肩を揺らして笑っている。

「その櫂君の同期ちゃん。佐々木さんていう別部署の女の子なんですけど。彼女のPCが壊れたから見てほしいって言って、私と同じ部署の櫂君を一日連れ出されてしまいまして。おかげで、私一人で二人分の仕事をしなくちゃいけなくなっちゃって。迷惑な話ですよ。それに、私には酔っ払いの相手なんか軽くかわせ、なんて怒ったのに、自分は可愛い女の子の頼みをほいほい訊いて、自分のところの仕事もしないんですよ。丸々一日戻ってきませんでしたからね。ホントに、もうっ」

私は、怒りにまかせてグラスのワインを一気に飲み干す。
すると、望月さんがニコニコしながらすかさずボトルからワインを注いでくれた。

「そしたら今度は、営業の佐藤君が俺と付き合えなんて言い出して」
「へぇ。川原さんて、やっぱもてるんだ」

「へ? いえいえ、そんなんじゃないんですよ。さっき、酔っ払いの相手なんて軽くかわせ、なんて話したじゃないですか。あれ、実はその佐藤君のことなんです。クリスマスパーティーの時に、酔っ払って一度口説かれてまして。まー酔っている席ですからね。相手にしてなかったんですけど。佐藤君だって、本気じゃないと思います。なのに、櫂君がえらい怒っちゃって。さっきのセリフですよ。酔っ払いなんてちゃんとかわしてくださいよっ。ですよ。自分の事は棚上げじゃないですかね」

櫂君の口真似をしながらぶちぶちと零し、まったくもぉー、と私はまたワインをゴクリゴクリと飲んでいく。
すると、望月さんはまたニコニコと笑いながらワインを注ぎ足してくれた。

「でも、今度はその佐藤とかいう彼にしらふで告白されたんだから、やっぱ本気なんじゃないの?」
「違いますよ。ちょっと私がパーマなんてこじゃれたことしたから、物珍しさにからかってるだけです。きっと冗談ですよ」

「ふーん」
「そうそう、ランチだって。いつもは櫂君と一緒だったから、戻ってくるのを待ってたのに。連絡もなしで、結局お昼も戻ってこなくって。そしたら、その佐々木さんとお外でランチしてたんですよ。こっちは待ってるんだから、連絡くらいしてくれてもいいと思いませんか?」

グラスのワインをここで一気飲み。
やってらんないとばかりに次々にワインを煽っていると、心配そうに顔を覗かれた。

「大丈夫? 自棄酒だからと思って次々注いだけど、ちょっとペース緩めようか」


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