「お久しぶりです。お元気でしたか?」

思わずさっき考えていたことを率直に言葉に出してしまった。

「元気元気。なかなか逢うタイミングがなかったよね」

本人が言うように望月さんはとても明るく元気そうな顔つきをしていて、その手には大きなスーツケースが引かれていた。

「どこかへ旅行でしたか?」

スーツケースに視線をやってから望月さんを見ると、首を振っている。

「年末から、出張が多くてね。まぁ、個人的な用事も重なって、なかなかこの部屋にいることもなくて」

望月さんは、私の隣に立つと桜を眺める。

「蕾、ついてきたんだ」
「はい。あと少しで、沢山の花びらが溢れますよ」
「楽しみだ」

桜が咲くのが待ち遠しいというように、蕾を愛おしそうに望月さんが眺めている。

「実は、ここを引き払おうと思っているんだ」

蕾から視線を隣に立つ私へ移すと、少しだけ寂しそうな瞳を向けてきた。

「引越し……されるんですか……」
「うん。川原さんのお隣さんでいるのは、凄く楽しかったんだけどね」

そんな。
せっかく仲良くなれたというのに引越しなんて、寂しい話だ。
望月さんとは、これからもいろいろな話をして一緒にまたお酒を飲んだりラーメンを食べに行ったりしたかったのにな。
キスのことでちょっと気まずくなったりもしたけれど、やっぱり一目惚れの相手だし、憧れの人だから、いなくなるのは寂しいものだ。