桜まち 


コンビニ袋をブラブラ振り回し、どんな男前がお隣さんなんだろう。と想像してニヤニヤしてしまう。

妄想を繰り広げながらエレベーターで三階に着くと、畳んだダンボールを持った男性が丁度部屋から出てきたところだった。

おっと。
ナイスタイミング。

ニヤニヤした顔を引き締め、ススッと慎ましやかに歩いていく。
相手もこっちへ向かって一歩踏み出した。

すると。

「あっ……」
「えっ!?」

私たちは、同時に驚きの声を上げた。
しかし、その驚きの内容は、片や驚愕で片や驚嘆だった。

相手は、恐ろしいものでも見るみたいに私を見て驚き。
私は、余りの運命に信じられないほどの嬉しさに驚いたのだ。

けれど私の運命は、ものの数秒で木っ端微塵に砕かれる。

「お前……、ストーカー女。こんなところにまで……」
「えっ?! なんですかそれ」

「電車で一緒になるたびにこっちをちらちら観察してただろ。気づいてないとでも思ったのか? それに、この前は会社にまでついてきてたじゃないか。完璧、ストーカーだろうっ」

「ちっ。違いますよ。あ……いや、ちょっと違うけど凄く違うわけでも……って。いやいや、違いますよ。うん」
「何がどう違うんだよ。しまいには、引っ越し先にまでついてくるなんて。警察に訴えるぞ」

「ちょっ、ちょっと待って。それこそ、違いますって。ここ、元々は私が随分前から住んでるんですから。追いかけてきたわけじゃありませんっ。それに、このマンションの持ち主、私のお祖母ちゃんですっ」
「お祖母ちゃん……?」

「そうです。だから、けっして追いかけてきたわけではなくてですね。だから、ストーカーだなんてそんなこと言わないでください」

好きな人にストーカー呼ばわりされるなんて、最悪だ。


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