コイツ、俺の嫁候補。
。:*°手を離すなよ


わずか六畳のダイニングに並ぶのは、食べ終わった二人分の食器とメイク道具。

お行儀が悪いと思いつつ、食器を片付けもせずにメイクを始めてしまうのが、あたし達親子の悪い癖。

どうせ女二人しかいないんだし……と思うと、ついついだらしなくなってしまう。


一年前から、お母さんのメイク道具に加えてあたしのものも並ぶようになった。

ファンデーションと軽くマスカラを付けるくらいしかしないんだけど、中学を卒業してからメイクに目覚めたのだ。いわゆる高校デビューってやつ。

まぁ、男勝りのあたしがバッチリメイクなんかしてたら笑われそうだけどね。



「縁(ユカリ)、今日はバイトなんだっけ?」

「うん。だから夕飯はいらないよ」

「よかった、今日遅番だから助かるわぁ。頑張ってね」



いつもよりゆっくり仕度するお母さんは、ポーチをバッグにしまうあたしに笑いかけた。

お母さんはフルタイムで働いているシングルマザーで、あたしはその一人娘。

少しでも負担をかけないようにと始めたコンビニのバイトは、もうすぐ一年になる。

女二人の生活は、決してラクではないけれど、それなりに幸せだ。

< 2 / 314 >

この作品をシェア

pagetop