君と私を、夜空から三日月が見てる
【ACT3】ヤキモチはカッコよくないんで、基本は妬かないほうがいいよね!


今、私の前のには、HMCの販売員高田えりかが、すさまじい形相で立っている。
可愛い顔を般若のように歪め、つけまでわざわざ大きくしてる目を、あえて細めて、ものっすごい怖い表情で私を睨んでいる。

この子、なんでこんな怖い顔で私を睨んでるのかな???
私はといえば、両手にゴム手袋をつけたおばさんのようなカッコで、従業員トイレの洗面台を必死で洗っていただけなのに!

そう・・・
ここは、バックヤードにある従業員専用のトイレの洗面台の前。
エテルノゾーンの従業員約500名が日々使用する、従業員トイレを掃除するのも清掃部門の役目!!
清掃といえば・・・やっぱり、トイレ清掃からは切り離せない職業だよね。

私は、思わずため息を吐いて、洗面台をスポンジでこすりながら、真横に立って私を睨みまくっている高田さんに言った。

「洗面台使いますか?もうちょっとで終わるんで、隣を使ってください。そっちはもう終わってるんで」

「あのさ・・・・」

可愛い顔を般若の形相で歪めたまま、高田さんはそう切り出した。
洗面台の泡を水で流しながら、私は、もう一度ため息をついて高田さんを見る。

「なんでしょう?」

高田さんは、不意に、化粧ポーチからリップを取り出すと、鏡に向かいながら、それを唇に塗りはじめる。

「一昨日・・・・柿坂君と一緒に出勤してきたんでしょ!?なんで!?」

「はい・・・・?」

私は、きょとんとして、ひたすらリップを塗りたくっている高田さんの恐ろし気な横顔を見た。

一体誰から聞いたんだろ・・・そんなこと?
清掃の出勤時間なんか、基本的には売り場の人より早いのに・・・

高田さんが言ってる『柿坂君と一緒に出勤した日』というのは、多分、あの日のことだ。
柿坂君の車がガス欠して、私が彼を自宅まで送っていって、そのまま彼が寝てしまった日の翌朝。
柿坂君は、ものすごーく素直にメールをしてきたので、私はほんとに迎えにいって、ガソリンの携帯缶ごと彼を職場の駐車場まで送ってきた。

朝帰りか何かと勘違いしてるのかな・・・??

私は、もう一度大きくため息を吐くと、スポンジを片手でしぼりながら言った。

「えーっとですね、なんでと聞かれてもですね~・・・・
仕方なかったというか、しょうがないというか・・・」

「しょうがないって何よ!?
なんであんたみたいなおばさんと、柿坂君が一緒に出勤してくるのよ?!
ありえないから!!」

思いのほか激情した口調でそう言うと、高田さんはぎろっと私を睨む。

いや・・・
ありえないのは、あなたのほうですから・・・・

その言葉を、私は喉元で飲み込んだ。
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