ガーデンテラス703号

In his room




翌日の朝。

通勤用の黒のパンプスに足を通していると、突然、玄関に一番近いホタルの部屋のドアが開いた。

この部屋で朝早くから仕事に出かけるのは会社勤めの私くらいで。

サービス業で勤務時間帯が不定期なシホとホタルは、だいたい私よりも遅く起きて出勤していく。

特にホタルが、私の出勤時間帯に部屋から出てくることは珍しかった。

びっくりして、パンプスに片方の足だけを入れた状態で硬直していると、私に気付いたホタルが眠そうな顔でこっちを見ながら寝癖のついた頭を掻いた。


「お、おはよう……」

昨日の今日だから、ドギマギしながら挨拶する。

だけどホタルは「おぉ」と言って、緊張感のない顔で大きな欠伸をひとつしただけだった。


「お前、毎朝早くて大変だな」

「し、仕事だから」

「いってらっしゃい。頑張れよー」

ホタルはまともに私の方も見ずにそう言うと、欠伸をしながら洗面所のほうに歩いて行った。


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