ガーデンテラス703号
Side Story

The Ring




「誕生日って有給取れる?」


土曜日の午後。

空っぽになったホタルのコーヒーカップをキッチンにさげようとしていたら、彼が私の背中に問いかけてきた。


「誕生日?誰の?」

振り返って小首を傾げたら、ダイニングテーブルに肘をついて座っていたホタルが呆れたように眉を寄せる。


「誰の、って。お前以外誰がいるんだよ。」

「私……」

ちょっと考えて、次の瞬間「あっ!」と大きな声が出た。

そういえば、すっかり忘れてたけど、2週間後の月曜日が私の誕生日だ。


「どうして知ってるの?」

自分でも忘れてたくらいの誕生日を、ホタルに教えた覚えがない。

怪しんでいると、ホタルが小さく苦笑いした。


「シホだよ。今月あゆかの誕生日だけど知ってんのか、って。自分の誕生日でもないくせに、顔合わす度に俺にアピってきてた」

「シホが?」

「そうだよ。それより、有給の話。取れる?」

どこか連れてってくれるのかな。

ホタルの言葉に期待した。


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