ガーデンテラス703号

Alarm


スマホのアラームの音が遠くから聞こえてくるような気がする。

起きなければ……と、意識の淵で考えながらも動けずにいると、すぐそばで低い声がした。


「あゆか、止めて。うるさい……」

アラームの音よりも、耳元で聞こえてきたその声に驚いて目が覚める。

枕元に置いたスマホのアラームを止めて身体を起こそうとすると、ホタルが私の腰に両腕を回して引き寄せてきた。


「ホタル、また勝手に人のベッドに入ってきてる……」

「だって、こっちの部屋のほうがリビングから近いし」

「近いとか、そういう問題じゃなくて……ここ、私の部屋なんだけど」


そう訴えかけたら、ホタルが私のことを無言で胸に抱き寄せてきた。

ほっぺたは押しつぶされて痛いけれど、鼻からいっぱいに吸い込んだホタルの香りにドキドキとする。

付き合うようになってから、ホタルはときどき、夜中に私の部屋のベッドに勝手に潜り込んでくるようになった。

深夜過ぎて店から帰ってきたときは特に疲れているらしく、朝目覚めたときに隣にホタルが眠っている確率が高い。

< 389 / 393 >

この作品をシェア

pagetop