風神さん。

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「それから私はすぐに「人身売買者」<ヒューマンブローカー>に騙されて、売り物にされた…そこからは」

風神の話をしていた時のカンナヅキは穏やかだった。が、そこで言葉が詰まった。
話すことの躊躇ではない。男の子がそっとカンナヅキの方を見やった。

「お姉さん」

カンナヅキの震える肩を触れようとした男の子の左の手は一瞬の戸惑いのせいでただ空を掴むだけになってしまった。
戸惑うのも仕方が無い、男の子にはカンナヅキの、年頃の女の涙を止める術など知らないのだから。

こんな時、ラナーだったら、なんて男の子は考えてしまう。

「私はね、この鎖がもっと長かった時、」

そう言いながら、チョーカーのような首輪に一つだけつけられた鎖を、震える手で掴んだ。
男の子は、話の続きを聞くことしかできなかった。

「ずっと、風神さんの事ばかり考えて…奴隷として扱われる毎日でも、風神さんの事をだけを考えて、生きていたの」

自分とは違う、風神と呼ばれた男はカンナヅキの全てなんだと、ここで男の子は悟った。
カンナは奴隷から解放された直後に、風神と呼ばれる男がこのギルド、「天使の誘惑」<ハニーエンジェル>に居ると聞いてここに来たのだ。
しかし、それは全てを忘れた男の子の事。

男の子はなんだか申し訳ない気持ちになった。
が、ここで謝罪してもカンナヅキには空虚でしかない。

そこで、男の子はある考えが頭に浮かんだ。



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