【完】私と先生~私の初恋~
先生、さようなら。
先生が居なくなっても、時間だけは淡々と過ぎてゆく。


夏休みになり、私はやっと失恋という言葉を噛み締めていた。


一生懸命考えた結果、あまりにも幼い恋に気がついたのだ。


先生はもう大人。


ましてや教師。


14.5の小娘が自分に恋愛感情を持っている事なんて、薄々感じてはいただろう。


そして、解った上で私が傷つかないように、ずっと変わりなく接していてくれたのだろう。


小さな脳みそで考えた結果出てきた、それが私の答え。


忘れなきゃいけないな…先生がずっと元気で幸せなら、私はそれでいい。


今思い出すと完全に自己満足でまだまだ幼い考えだが、私にはそれが精一杯だった。


夏休みも半分を過ぎた頃。


いつもの様に遅く起きた朝、猛暑にノックアウトされながら郵便受けを見に行くと、新聞の間に一枚の葉書が入っていた。


宛名を見ると私の名前。


差出人は…関岡先生だった。


【 残暑見舞い申し上げます。
  元気にしていますか?
  歌う事はまだちゃんと続けているでしょうか?
  こちらの暑さは厳しく、そちらで過ごした爽やかな夏の日々が思い出されます。
  
  8月の花火大会の辺りに、そちらに観光で伺う予定です。
  それでは、夏に負けずに過ごしますように。 】


心がまた先生で一杯になるには、あっという間だった。


手紙を読み終え地域の予定表を確認すると、花火大会はもう目前だった。


だからといって、電話番号も知らない先生とは、会う約束も出来ない。


それに今年は、同級生男女数名で見に行くことに決まっていた。


これじゃ、何だか生殺しだなぁ…

久々に感じた胸の痛みを懐かしく思いつつ、私はもう、少しは大人になったのだと、
そう自分に言い聞かせた。


花火大会当日。


初めて友達と見に行く花火大会。


一緒に行く予定の友人から浴衣を借りて着付けしてもらった私は、どうせなら…と勧められるまま、お化粧道具も拝借した。


中高生向けの雑誌と睨めっこしながら初めて施した化粧姿は、今思うと少しでも大人に近づきたかった気持ちの表れだったのかもしれない。


もしかしたら…というほんの少しの下心を含みつつ、私は会場に向かった。


が、結局ばったり先生に会える…なんてドラマチックな展開は無く、友人達と楽しく過ごして花火大会は幕を下ろした。
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