【完】私と先生~私の初恋~
先生、ありがとう
しばらくの間、私達は黙って下を向いていた。


だんだんと、何故か自分が怒られているような、不思議な気分になってゆく。


色々な事が頭を駆け巡りまた涙目になっていると、先生が大きくフー…っと溜め息をついた。


ビクッと驚いて先生を見る。


ゆっくりとこちらを向いた先生は、私と目が合うと、いつものようにニコっと笑った。


「目…腫れちゃってますね。」


先生はそう言って立ち上がるとキッチンに行き、冷凍庫から氷を取り出して袋に入れ、小さなハンドタオルと一緒に持ってきた。


そして私の横に腰掛けると、不思議そうに見ている私の顔を優しく押さえ、目にそっと氷袋を当てた。


「…今から冷やして、効果あるかな?」


先生がちょっと困ったように笑いながら言う。


その途端、胸につかえていたドロドロとした感情が溢れだし、私は堪えきれずに声を押し殺して泣いた。


先生は私の背中をずっとさすりながら、もう大丈夫だから…と何度も何度も繰り返した。


目を覚ますと私はソファの上で、妙に大きな毛布を掛けられていた。


ぼーっとした頭で、ここが何処だか思い出す。


ハッとして部屋を見渡すが、先生の姿はなかった。


どこに行ったんだろう…そう思いながらテーブルに目をやると、何やら色々と置かれていることに気がついた。


缶コーヒーとペットボトルのお茶、フェイスタオルに小さなメモ用紙。


【 今日は土曜日ですが、少し仕事があるので学校に行ってきます。
  
  午前中だけなのでお昼頃には帰ると思います。
  
  目が覚めたら顔を洗って、お茶でも飲んで待っていてください。 】


メモには癖のある綺麗な文字で、そう書かれていた。


ふと壁に掛けてある時計をみると、大体11時半。


私は書かれた通りに顔を洗うと、ソファに戻ってお茶を一口だけ飲む。


ホッと一息つくと、昨日の出来事が思い出され、何とも言えない複雑な気分になった。
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