【完】私と先生~私の初恋~
イキナリの同居生活
その日の朝。


先生が出掛けて少し経ってから、私は周囲に人の気配が無い事を確認すると、そーっと先生の家を出た。


夏休みで学校は休みといえど、高校3年になった私は就職活動をしなければならない。


その為に必要な物と、あとは生活に必要な物を少しだけ取りに、私は一旦家に戻った。


家に着き、緊張しながらドアノブを回す。


鍵は掛かっていなかった。


「………」


注意深く家の様子を探る。


テレビの音だけが、かすかに聞こえた。


私はそっと足を踏み入れると、なるべく足音を立てないようにリビングに入った。


荒れ果てたリビングではボロボロになった母が、ぼーっとテレビを見つめていた。


母に動く気配は無い。


男と弟の姿も、どこにも無かった。


そんな母を無視するように二階に上ると、私は急いで荷物を詰め、またそーっと一階に降りた。


母は変わらず、テレビを眺めていた。


「………暫く戻らないから。」


私は何となく母に言った。


母はテレビを見つめたまま小さくコクっと頷いた。


なんともいえない胸の痛みが、気持ち悪かった。


それからしばらくの間、私は本当に先生の家で過ごした。


バイトは休みを入れ、就職活動に必要な時のみ外に出た。


私は先生のベッドを宛がわれ、先生はソファで寝た。


洗濯物は3日に一回、先生と別々にして回した。


私が水道代の心配をすると、先生は「僕はお金持ちですから。」と言って笑った。


夕飯は先生が買ってきたものを食べた。


一応、朝昼分も用意しておいてくれたのだが、なんだか申し訳なくて食べられなかった。


お風呂は先生の居ない間に入る決まりになった。


理由は、先生が恥ずかしいからだそうだ。


少しずつ、ルールが出来ていった。
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