【完】私と先生~私の初恋~
初恋の結末
荷物をまとめた鞄を肩にかけ、母に封筒を渡す。


「…領収書だって。先生が返しに行ってくれたから…」


母はまた泣きそうな顔になって、封筒を受け取った。


「じゃあ…私、行くから…」


そういって母に背を向ける。


玄関でワタワタと靴を履いていると、母は慌てたように「早苗!」と私を呼び止めた。


振り返ると、母が何やら言いたそうに口をアワアワとさせている。


「…なぁに?」


優しく聞くと、母は少し泣きそうな顔で「またね…」と小さく言った。


私は少しだけ微笑んで「うん。…またね」と返事を返して家の外に出た。


家の前では、先生が車に乗って待っていた。


私は後部座席を開けて荷物を放り込むと、そのまま後ろに座って扉を閉めた。


何故だか、助手席に座るのは気が引けた。


先生は私がしっかり座ったのを確認すると、「さーて、帰りましょうか。」と言って車を出した。


来た時と同じように、二人とも何も話さなかった。


家に帰りリビングに入ると、先生はフワーッと大きく背伸びをした。


「何だか大変な一日でしたね~。あー疲れた。」


そう言いながら、ニコリと私を見る。


私はずっと気になっていた事を質問した。


「…手…どうしたんですか…?」


「ん?手?」


先生は自分の両手を広げて、不思議そうに眺めた。


「怪我しただけですよ。


傷も深くないし、ほっときゃ直るでしょう。」


そう言うと、ハハっと恥ずかしそうに笑った。
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