うつくしいもの

彼は寝室に入り荷物を纏めると、

そのまま動けずにいる私を一瞥する



その目は、反抗もしない私を軽蔑している




「後の荷物は、全部捨てて」



「――うん」




もう振り返る事はなく、
彼は部屋を出て行く



出て行くその手には、
彼が大切にしていたあのアコースティックギターはない



私だけじゃなくて、
音楽も捨てた



音楽は、彼が一番大切にしていたものなのに




涙は出ない



もう散々泣いたから



泣く力さえ、
私には残っていない



まるで、脱け殻のよう





あの頃を、懐かしく思ってしまう



全てが美しく、
眩しかった――…




あのライブハウスを――



< 2 / 373 >

この作品をシェア

pagetop