恋のはじまりは曖昧で

何だろうと思っていたら、ジェスチャーでスマホを見るように言われた。
私はバッグの中に入っていたスマホを取り出し、送られてきた写メを見て声を失うほど驚愕した。

そこに写っていたのは私がうっすら目が開いていて田中主任の肩に寄りかかって寝ている姿。
辛うじてヨダレは垂れていなかったけど。

「どうだ?よく撮れてるだろ」

ニヤリと口角をあげて笑う浅村くんに殺意を覚えたけど、今はそんなことより謝ることが先だ。
隣に座っていた田中主任を見ると、ずっと起きていたのが目は開いていた。

「田中主任、すみませんっ。つい寝ちゃって……。重かったですよね」

「いや、急に寄りかかってきたから驚いたけど可愛い寝顔で気持ちよさそうに寝てたから起こしちゃ悪いかなと思ってそのままにしてたんだ」

「田中主任、甘やかしたら駄目ですよ。こんな顔して寝てたんですから。寝てるはずなのに白目ですよ」

そう言って自分が撮った写メを田中主任に見せる。
あーさーむーらー!
なんてことをしてくれるんだ!

「可愛いじゃん。また眠くなったらいつでも肩を貸すからな」

田中主任が自分の右肩をポンポンと叩き、悪戯っ子のような笑顔で言うので私の顔はゆでダコのように真っ赤に染まった。
田中主任の笑顔の威力が強すぎて、浅村くんへの怒りはどこかに消えていた。

私の初めての社員旅行は羞恥と謝罪で幕を閉じたーーー。
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