素顔のキスは残業後に
第1章 不機嫌な上司と誘われた夜に
働くようになってわかった。
タチの悪いおじさんには、女子以上にネチネチと『女の子体質』の輩がいる。


あーぁ。ついにJR全線運転休止かぁ……。

パソコンのモニターを睨みながら恨めしく思う。
21時に関東上空を通過する大型台風も、「緊急業務以外は帰宅優先」社内通達も、電話越しの相手には関係なかった。

「まったく。謝ってすむなら警察いらないんだよっ」

いまどき小学生でも使わない安っぽい暴言にもう何十回目の「はい」を返しながら、近くに座っている課長に苦笑いを浮かべる。

電車が動いているうちに他の社員は帰宅してしまったから、照明を半分落としたフロアーには私と課長のふたりっきり。帰り支度をしていた時に捕まったこのクレーム処理のせいで、帰宅する交通手段はなくなった。

こうなったら台風が過ぎ去るのを待つしかないよねぇ。

お腹をたぷたぷ揺らしながらゴルフの素振りを始める課長を横目に思う。

< 4 / 452 >

この作品をシェア

pagetop