呉服屋の若旦那に恋しました


そう言って、志貴は意地悪く微笑んだ。

昔のことを思い出したり、志貴に嫌われたくないと思ったり、凛々堂の紙袋に過剰反応したり……。

なんだか最近、まんまと志貴に踊らされている気がしてならない。

まだこの気持ちにちゃんと名前は付けられないけれど、


でも、

嫌われたくないと、志貴に抱き着いたあの自分は、“本当”なのだろう。



あれが私の本心のすべてなのだとしたら、

私は、彼無しでは生きていけない人間に、なりつつあるのかもしれない。



……1つ引っかかることがあるとしたら、

彼のその優しさは、

私がついた嘘ゆえの優しさかもしれない、ということ。




優しくされるたびに、私は胸のどこかで鈍い痛みを感じていた。





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