鬼部長の優しい手
拒絶と守れない約束



「只今戻りました」



香澄先輩と話したあと、
先輩はこのあと打合せがあるから
と言って、会社とは逆の方向に
つま先を向けた。

私は残っている書類を片付けようと、
足早に会社に戻ってきた。

結構長く話し込んじゃった…
これじゃあ、今日も残業決定かな…?

「おかえり、涼穂」

「あ、ただいま黛実」



ふぅ、とため息をついていると、
少し離れたところにいる黛実が
おかえり、と言ってきた

黛実も今日は結構、量あるなーっと
黛実のデスクの上に山積みにされた
書類を見ながら、私はふと気づいた。

黛実の奥にあるデスクに座り、
いつも通り淡々と仕事をこなす部長
いつもと変わらない仏頂面なはずなのに
少し苦しそうに見えるのは、
私の思い違いなのか


「ねぇ、黛実


部長、なんか変じゃない?
うまく言えないけど、何て言うか
苦しそうって言うか…」

私の気のせいじゃないか、
とりあえず近くにいた黛実に
聞いてみる。

黛実も、もし「そうね」って言ってくれたら、私の思い違いじゃないかも。




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