ささくれとレモネード




「おねえちゃん、あさ、朝だよ。起きないとほら、ねえ、遅刻しちゃう」


小春は、容赦なく布団の上から榛名を叩き起こす。日々目覚ましく成長している4歳児の威力は、榛名の腹部にクリーンヒットした。


その痛みで完全に目が覚めた榛名が体を起こすと、小春はにんまりと笑って、部屋を走り出ていく。


榛名も腹部を擦りながら、ふらついた足で1階へと降りていった。


「目の下、隈できてる」


榛名の顔を一瞥した母、櫻子の開口一番は、それだった。


目の下を擦りながら席へつくと、食事と共にコップ一杯の水を榛名の元へと持ってくる。


それから手を休めずに、小春のほっぺたに付いた赤い調味料を拭う櫻子を見て、榛名は今日も心の内で、その母親ぶりに感心していた。


「この時期に夜更かしは良くないわよ」


「違うの。あんまり眠れなかっただけ」


櫻子は腑に落ちない顔をしたが、すぐに何かを思い出したように台所へ姿を消した。


「おねえちゃん」


「うん?どうしたの」


「あのね、早寝早起きしないとね、本当にね、目だけじゃなくてぜんぶパンダになっちゃうんだよ」


拭いたそばから食べこぼしをつけている、一生懸命な妹の忠告に、榛名は小さく笑った。


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