幸せの花が咲く町で
◆香織

自己嫌悪





(こんなに……!)



堤さんの家を離れる時、夏美さんが私に封筒を手渡された。
何ですか?と訊ねると、夏美さんはにっこり笑って「お手紙」とだけ言われたから、お礼の手紙でも書いて下さったのかと思ったら、手紙以外に三万円のお金までが入ってた。
お手紙には、丁寧なお礼の内容と、これからも仲良くしてほしいということが達筆な文字で書かれてあり、私はすっかり恐縮してしまった。



(どうしよう……!?
たったあれだけのことで、こんなにいただいてしまって良いのかしら?)



「母さん、今、ちょっと良い?」

「なんだい?」

他に相談する人もいないから、私はここ数日のことを簡単に話すと共に、母さんにお金のことを相談した。



「そんなことがあったのかい。
まぁ、いただいておけば良いんじゃないかい。
そこのご夫婦はお金持ちなんだろう?
三万円はうちにしたらけっこうなお金だけど、きっとそのご夫婦にしたらそうでもないんだよ。
だから、変に遠慮なんかしたら、向こうも却っていやな気分になられるかもしれないよ。
あんただって、子供にお菓子を買ってやって、それを遠慮されて返されたりしたらいやだろう?」



なにげない母さんの言葉が私の胸に突き刺さった。



やはり、堤さんは私とは違う世界の人達……
優しくしてもらって、夕食をご一緒して、ますます親しくなれたような気がしていたけれど、私とはまるで違う世界の人達なんだと思い知らされた。
多少の悩みはあっても、お金持ちでお互いが深い愛情で結ばれた幸せな家族……



(……私には手の届かない世界の人達なんだ……)



そんなこと、最初からわかってたはずなのに、なんだかとても気持ちが滅入った。
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