幸せの花が咲く町で
さっきまでの浮かれた気持ちが一瞬でどこかに吹き飛んだ。



旦那さんと一緒にお寿司を作って……
それを皆でわいわい言いながら食べて、笑って……
とても楽しくて、幸せなひと時……



だけど、本来ならば、そこは私がいるべき場所じゃない。
愚かで、貧しくて、何の取り柄もない私がいるべき所じゃないことはわかっているのに、それでも、私は居心地の良さにどうしてもそこにひかれて……



花屋だってそう……
綺麗な花に囲まれてる自分が、そこに相応しい人間じゃないことはわかってる。
なのに、どうしても離れたくなくて……



(いつだって、私はそうなんだ……
智君だって……私なんかと釣り合わないことは最初からわかっていたのに……)



そんなことを思い出すと、やっぱりこれ以上、堤さんご一家と関わるのは良くないことのように思えた。
特に、旦那様にお花を教えるなんて……
小太郎ちゃんがいるとはいえ、奥様のいない時にお家に上がり込むなんて、考えてみれば非常識過ぎることなのかもしれない。

堤さんご夫妻は、とてもフランクな方だ。
たとえ、普段からお店で顔を合わせているとはいえ、見ず知らずの私に小太郎ちゃんのことを任せて下さって、家の鍵まで持たせて下さって……
そんなだから、ついつい私もそれに甘えてしまってたけれど、ご近所の目っていうのもある。



(それとも、私のことなんか、誰も気にかけないかしら?
端からお手伝いさんか何かのように思われてる?)



やはり、お断りするべきだ。
何かもっともらしい理由をつけて……
そもそも、私は、お花の先生でもなんでもないんだし、お教えする技量だってない。
本気で習いたいと思われてるなら、どこにでもそういうスクールはあるはずだもの。

そして、馴れ馴れしくしないこと……
私は、堤さんがよく来て下さる花屋の店員。
……それだけだもの。



お断りするべきだと思うのに……なのに、私にはどうしてもその決心が出来なかった。

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