「すみませ~ん!」

僕が声をかけると、篠宮さんは軽く会釈を返した。



今日は家にいると言ってたくせに、幼稚園から帰って来ると、小太郎は、やっぱり翔君の家に遊びに行くと言い出した。
家に二人っきりだと篠宮さんも気詰まりだろうと思うから、小太郎にはいてほしかったのだけど、子供は本当にきまぐれだ。
きっと、幼稚園で遊んでいるうちに、翔君の家に行きたくなったんだろう。
月曜にも行ったばかりだから申し訳ないと思いつつ、仕方なく小太郎を翔君の家に送って行った。



「お待たせしました。
今開けますね。」

「何か、ご用でもあったんですか?」

「えぇ…まぁ……」



家の中に入ると、篠宮さんは小太郎がいないことを不審に感じたようだった。



「……あの……小太郎ちゃんは?」

「翔君の家に遊びに行ってるんですよ。
実は……今まで友達の家に遊びに行ったり来たりってことを禁止してたんです。
それは、僕の一方的な事情からで……それじゃあ、いけないなって思って、つい最近、解禁したんですよ。」

やかんに水を入れて、それを火にかけて……
そんな作業をしながら僕は言いにくさを誤魔化し、殊更になんでもないように話した。



「そ、そうだったんですか。」

やっぱり非常識だったか?
よその奥さんと二人っきりでいるなんて……



「あの……なんだったら今日は中止にしますか?」

「え?どうしてですか?」

篠宮さんは、本当に僕の言葉の意味がわかってないみたいだった。



「だから、その……
二人っきりで家にいると、その…おかしな誤解をされるんじゃないかと。」

「あ……」

篠宮さんの顔がみるみるうちに赤く染まった。



「すみません!気が利かなくて…
そうですよね。
堤さんだけしかいらっしゃらない所に私なんかがいたら、夏美さんがいやな想いをされますよね!」

「ち、違いますよ!
なっちゃんはそんなこと少しも気にしません。
逆です。
篠宮さんのご家族のことを考えたんです。」

「え……あ……あぁ、そういうことでしたか。
う、うちなら心配はいりません。
水曜日にこちらに来させていただいてることはうちの者にも話してますし、そんなことは誰も誤解なんて……」



『そんなことは誰も誤解なんて……』

その言葉に複雑な想いを感じた。



篠宮さんは、家族に僕のことをどんな風に話してるんだろう?



少々、心を病んだだめな奴…?



だから、浮気なんかに発展することはあり得ないと思われてるんだろうか?



それとも、篠宮さんが僕なんか相手にしてないってことなのか?

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