幸せの花が咲く町で
◆香織

小さな決断





「母さん、今、ちょっと良いかな?」

私は部屋でテレビを見てる母さんに声を掛けた。



「なんだい?何かあったのかい?」

「うん…たいしたことじゃないんだけど……
母さんに話しておきたいことがあるんだ。」

「どうしたんだい?
一体、何の話なんだい?」

「ちょっと待ってね。
今、お茶を淹れて来るから……」



いざ話そうと思ったら、妙に気恥ずかしくて、私はそれを誤魔化すためにお茶を淹れた。



「あのね……
実は、私……好きな人が出来たんだ。」

「え!?」

本当に恥ずかしかった。
中学生や高校生ならともかく、四十に手が届こうかとしている私が、こんなことを母親に言うなんて……



「そうかい、そりゃあ良かったね。
それで、どんな人なんだい?」

きっと母さんは内心驚いてはいると思うけど、なんともないふりをしてそう訊ねてくれた。



「母さんも見たことあるよね。
……堤さんだよ。」

「堤さん……?
でも、あの人は家庭があるって……」

「それがそうじゃなかったんだ……」

私はすべてを話した。
夏美さんは堤さんの奥さんではなくお姉さんだったってこと、小太郎ちゃんは夏美さんのお子さんで、近々、別居していた旦那さんと一緒に住まれること……
そして、私は既婚者のふりをしていて、お互いに既婚者だって思ってたから、想いをおさえていたことを。



「なんだって!
そんなことが……?
でも、どうしてその誤解が解けたんだい?」

「私…夏美さんが男性と一緒のところを何回か見たんだ。
それで、不倫じゃないかって心配してたんだけど、ある時、夏美さんとその男性がその……キスしてるところを見てしまって……私、それを見たら我慢できずに夏美さんをひっぱたいてしまってね。
そのまま、堤さんの家に連れて行かれて、そこで、その男性が本当のご主人で、堤さんは夏美さんの弟さんだってことがわかったんだ。」

「あれまぁ……」

「それでね……実は、私が独身だってこと、まだ話してなかったから、昨日そのことを話しに行ってたの。」

「そんな話をカラオケでかい?」

「う、うん、まぁね。」

今更、家に行ったとは言いづらくて、そういうことにしておいた。
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