幸せの花が咲く町で




「な、なんだって~!」

引っ越しの話をすると、母さんはやっぱり目を丸くして驚いた。



「ごめんね。
夏美さん、多分、堤さんを一人にするのが心配だったんだと思う。
それで……」

「だったら、あんた一人で行けば良いじゃないか。」

「だめだよ。アパートの立ち退きだってもう言ってあるんだから、二人で行かなきゃおかしいじゃない……」

「でも、私はその人に会ったことさえないんだよ。」

「大丈夫だよ。
それまでに会いたかったら会えるようにするから。」

母は、突然の引っ越しを渋っていた。
それも無理からぬ話だ。
母は堤さんに会ったこともなければ、どんな家かも知らないんだから。



「広くて明るくて、庭には綺麗な花がいっぱいですっごく気持ちの良いお宅なんだよ。」

「へぇ……私達が住んでもじゃまにならないくらい広いのかい?」

「うん、大丈夫。
夏美さんと小太郎ちゃんがいなくなるし、三人でも広すぎるくらいだよ。」

「それで……堤さんは、本当に私も行って良いっておっしゃってるのかい?」

「もちろんだよ。」

母さんは、ぶつぶつと独り言を言いながら考えて込んでいた。



引っ越しの費用は、夏美さんが全部持つとおっしゃってくれた。
そればかりか、何か必要なものがあれば何でも言ってくれと。



「こんなことを頼めるのは、香織さんしかいないから。」



そう言われたら、ますます私は引っ越さないといけないような気持ちになっていた。
だけど、問題は母だ。
母がどうしても行かないといったら、私はどうすれば良いのだろう?







「じゃあ、まず、行くだけ行ってみようか。」

次の日の朝食の時、母さんが唐突にそんなことを口にした。



「……え?」

「だから、堤さんのお宅だよ。
あんたは行きたいんだろ?
もしも、どうしても折り合いが悪いとか、なにかあればそれはその時に考えよう。」

「あ……ありがとう!
母さん、ありがとう!」


< 291 / 308 >

この作品をシェア

pagetop