幸せの花が咲く町で




「うん、バッチリ!」

なっちゃんは、小皿を置くと、片目をつぶり親指を突き出した。



あれから、僕は毎日なっちゃんに料理を教わった。
包丁の使い方、だしのとり方、料理に関することをあれこれ教わって、時間さえあれば勉強や練習を続けた。
その甲斐あって、僕は今ではちょっとした飾り切りも出来るようになったし、一般的な料理は一通り作れるようになっていた。
ノートはもう五冊目に入ってるし、それに、僕の体重もうんと増えた。
夜遅くに失敗したものを食べてるうちに、少なくなっていた僕の体重は、元の重さを少し上回る程になっていた。
ついでに、小太郎やなっちゃんも、頬が少しふっくらする程度に太っていた。



「すごく良いだしが出てるよ。
あんた、昔から凝り性だったから、やっぱり上達も早いね。」

「なっちゃんのおかげだよ。
なっちゃんが、いろいろ教えてくれたから……」

「私の偉大さがわかったか!?」

「うん、わかった!」

なっちゃんは、小さく頷いてにっこりと笑った。



「ねぇ、優一……
突然こんなこというのもなんだけど……
私……働いても良いかな?」

「え……?」

「いや、お金がどうこうってことじゃないんだよ。
お金は大丈夫なんだけど、私、元々が家にいるより仕事したいタイプなんだよね。
それはあんたも知ってるでしょ?
それで、たまたま昔の知り合いからうちに来てくれないかなって誘われてね。
ほら~、私って、とにかく優秀だから~」

「そうなんだ……」



なっちゃんは、あんな風に言ったけど、きっとかなりお金が乏しくなってきてるんだと思う。
それは当たり前のことだ。
僕が、なっちゃんの家に転がり込んでから……そうだよ…いつの間にかもう一年近く経ってるんだから。
それに、なっちゃんは本当に働くのが好きで、しかも頑張り屋だから、就職してから出産以外では一日も休んだことがないっていうのが自慢だったのに、僕のせいでこんなに長く家にいたんだ。
働きたくなるのも当然かもしれない。



「それでね……あんたには申し訳ないんだけど、小太郎と家のことを頼みたいんだよ。」

「……いいよ。
そんなことで良かったら、僕に任せてよ。」



本当なら僕が働くべきなんだってわかってるけど、正直言ってまだ自信がない。
僕は甘えてるだけなのかもしれないけど、今から職を探して働くことを考えると、なんだかすごく気分が塞ぐのを感じる。
今はもう体調も落ち着いてるし、以前みたいに眠れないってこともないから、本当ならきっと働けるはずなんだけど……
いや、働くべきなんだけど……
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