幸せの花が咲く町で

日常





(いけない…まだやることはいっぱいあるのに……)



僕は立ち上がり、掃除機を片付けると、今度は庭の世話に向かった。
陽当たりが良いせいか、どれもすくすくと育ってる。
ここへ来てから、花の名前もずいぶん覚えたし、育て方もずいぶん学んだ。



(母さん…どう?
けっこう綺麗にしてるだろう?)


最近になって、僕も母さんが植物を愛した気持ちが少しだけ理解出来たような気がする。

何の見返りも求めずに、植物は花を咲かせる。
それがごく当然のことであるかのように……

自分をより美しく見せようだとか、目立とうだとか、そんな気等なく、花は、ただ、ありのままの姿を見せてくれる。
たとえ、見る者がなくとも、花はそんなことに気を煩わせることもなく、ただただ、花を開く。
そんな健気さが、見る者になにかしら勇気のようなものを与えてくれるのかもしれない。



与えた水が、葉っぱの上できらきら輝く。



(あ、そうだ!
棚を買いに行かないと……!)



用事を思い出し、のんびりした気分が吹き飛んだ。
慌てて水をまき終えると、僕は自転車にまたがった。







「あぁ、忙しかった……」



なっちゃんの部屋に置く棚を買い、その他にもトイレットペーパー等ちょっとしたものを買って戻ると、テレビはお昼のワイドショーを流していた。
時の流れは本当に早い。
簡単なもので昼食を済ませ、お風呂やトイレの掃除を済ませたら、そろそろ小太郎のお迎えの時間になっていた。



バスはほぼ時間通りに来るから、僕はお迎えもギリギリに行く。
昼間に男の僕が迎えに行くこと自体、きっと、若いママさん達の間では話題になってるはずだ。
あの人はどうして働いてないんだろう?とか、そんなことをあれこれと……
小太郎は姉の子供で、姉夫婦が離婚して、姉が働きたいと言ったので、僕が家のことをしている。
現実をありにままに言えば良いのかもしれないけれど、きっと、それをそのまんま信じてくれる人は少ないと思う。
それに、今の話にはほんの少し嘘もある。
僕も、今はまだまともに働く自信がないから、姉の申し出を受け入れたというのが抜けている。

そんなことを話せば、またそこで話題になりそうだ。
なぜ、働く自信がないのか?と……


だから、何も話さないのが一番だ。
極力、ママさん達とは接触せず、変わり者だと思われない程度に愛想だけは良くして……
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