幸せの花が咲く町で
子供はどちらかというと好きじゃない。
特に、ちょっと知恵のついてきたサトシ君みたいな小学生くらいの子供は……


(子供って、残酷だもん……)


見たまんま、思ったまんまのことを口にするから。



だけど、サトシ君は少し違った。
初めて会った時から、なにかしら波長のようなものが合うのを感じた。
ここのオーナーは優しい人だから、サトシ君もその血を受け継いだだけかもしれないけど……

ここに来てしばらくして、サトシ君は私に「かーちゃん」というニックネームをつけてくれた。
名前の「香織」から考えてくれたもの。
「カオリン」とか「カオカオ」っていうアイディアも出てたけど、それはさすがに気が引けたから、「かーちゃん」を選んだ。
皆、ニックネームで呼びあうことにしようってサトシ君が言い出したのは、私がなかなかみんなと馴染めなかったからだと思う。
今までの店員さんとは、けっこう親密に接してたみたいだ。
でも、さすがにオーナーのことを「しんちゃん」とはなかなか呼べず、最初は無理して呼んでた「さとっち」もいつの間にか、元通りの「サトシ君」に戻って、他の人も私を苗字で呼ぶようになったけど、サトシ君だけは、いまだに私のことを「かーちゃん」と呼ぶ。



「すみませ~ん。
菊を下さい。」

「あ、はい!」



ぼっとしてる間にお客様が来られて、私は慌てて表に向かった。



「いらっしゃいませ。
菊ですね?何色になさいますか?」

「えっと…白を三本と……」


お客様のオーダーを聞いてる時に、サトシ君が手を振って、そっと店を出て行った。
私もお客様に気づかれないように小さく手を振り返す。
小さいけれど、こういう気遣いが出来るところがすごい子だ。




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