毎日、決まった時間に起きて、それから花屋さんで働いて……
帰りにスーパーで買い物をして家に戻って……
私にはこれといって趣味もないから、部屋ではテレビを見るか、暇潰しに漫画を読むくらい。
こんな時、ふと人恋しくなってメル友サイトでものぞいてみようかっていう気分になるけれど、それを行動に移すことはない。
やっぱり、まだ智君のことを完全に乗り越えられたわけじゃないから。
また、あんな人と出会ってしまったら……そう思うと怖くて出来ない。
そう思う反面、私の頭に浮かぶのは智君との楽しかった記憶ばかり。



(あんな目にあったのに……)



自分の馬鹿さ加減にはつくづくうんざりする。



だけど、智君は、私にとって最初で最後の人……
そりゃあ、今までにも好きになった人はいるけど、それは話したこともなく、ただ遠くから見てるだけの片思い…憧れみたいなものだった。
智君は本気で愛した人だから、なかなか忘れられないのも仕方のないことなのかもしれない。



(それに、智君は最後まで優しかったから……)



騙されてお金を巻き上げられる場合……漫画では、よく別れ際に罵声を浴びせるシーンが描かれている。
「おまえみたいな女、俺が本気で相手にするわけないだろ!」
……みたいなことを言われるシーンだ。
でも、智君はそんなことなかった。
初めて会った時から、別れる時まで、智君はずっと優しかった……



それでも傷ついたのは当然だけど、きっと、智君のあの笑顔は一生忘れられないだろうと思った。



(……あぁ、そうか……)



笑顔の向こうに、不意にある記憶を思い出した。
母が退院してからの我が家は、毎日、口喧嘩が起こり罵りの言葉が飛び交っていた。
思い出すのもいやな記憶……
毎日繰り返される喧嘩に、私の心はどんどん磨り減っていった。
優しい言葉や態度を忘れ、お互いが傷付け合い、私はその中で、ひとり、自分の殻に閉じこもっていた。

笑うことを忘れた家族……

そうだ……だから、私は優しい智君にひかれたんだ。
よく笑い、私のことを誉めてくれて、認めてくれる智君に……



そう思ったら、なんだか昔の自分がとても可哀想に思えて、涙がこぼれた。

この作品のキーワード
トラウマ  転機  アラフォー  復活  地味  切ない  誤解  ピュア  大人の恋  じれじれ 

感想ノートに書き込むためには会員登録及びログインが必要です。