獣系男子×子羊ちゃん
お兄ちゃんがいなくなった

「蒼介さん、大学、受験するの?」


「ん。」


「最近、お兄ちゃんもよく
大学関係のぶ厚い本、読んでる。
なんか、難しい顔してる。」


眉間にシワを寄せて、
こめかみに人差し指をあてて、

お兄ちゃんが
悩んでいるときによくするポーズを
まねをすると、

蒼介さんが作り笑いをかえす。



「確かに、最近、学校でも公園でも
よくそうやってるよな。
一樹、まだ、バイトしてるだろ?」



「うん。この前、バイト代入ったって
おごってもらった。」



「学校のいつも遊んでるメンバーにも
バイト先でおごったみたいだしな。」



「お兄ちゃん、最近サービスいいね」



そう言って小さく笑う。



「そうだな。」



蒼介さんが私と
目を合わせないようにしているのが
わかる。


私は優しい蒼介さんしか
知らなかったけれど、
蒼介さんには蒼介さんの世界があって
それは私にはわからない。


私の知っていた蒼介さんは
本当の蒼介さんでは
なかったのかもしれない。



「受験、行きたい学校受かるといいね」


私も目を合わせることが出来ないまま
ポツポツと話し続ける。



「受験っていっても、まだ一学期だから
しばらく先だけどな。」



「うん。…でも、これからは、
あまり会うこともないから。」



そう言って立ち止まった。



「私、ちょっとコンビニ寄って
買うものがあるから、
先に電車乗って…ください。」



「いいよ、待ってるよ。」


今日は
いつもの優しい蒼介さんだ。

でも、今は
蒼介さんの優しさが辛い。

頭のなかが混乱して、
ますますわからなくなる。



「あの、今日は
学校の友達と待ち合わせしてるから。

その、誤解とかされると
蒼介さんにも迷惑かかるし、

だから、
先に行ってもらえると…助かります。」



「…そっか…。じゃあな、モモ…」



そうして駅に向かう蒼介さんと別れた。



自分でも下手な嘘だなと思う。


それでも、こんな気持ちで
混んだ電車に一緒に乗るのは

辛すぎて、 たまらなかった。


最後にちゃんと笑って
話すことができた。


もう、これでいい。

これが私の精一杯。


「ふうっ。」


しばらくコンビニで時間を潰してから
学校に向かった。


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