【完】『道頓堀ディテクティブ』
1 ゆりあの秘密

道頓堀から高島屋の交差点を抜け、千日前を越えて日本橋(にっぽんばし)の電気屋が並ぶ界隈へと出る細い裏道に面したビルに、

「久保谷探偵事務所」

と書かれた小さな立て看板がある。

えらくオンボロな事務所で、

──あれでホンマにあそこ儲かっとんかいな。

と普段は皮肉をたれる黒門市場のオバハンなんぞも、いざおのれの飼い猫がいなくなると、厚かましい顔をして猫探しの依頼を持ち込んでくる日もある。

ここのあるじは、

「あんなシュッとした男前が探偵なんぞやっとったら、目立つんちゃうか」

と言われてしまうほどの二枚目である。

久保谷穆。

クボヤ・ボクと読む。

ちなみに「穆」とは珍しい名前だが、漢文の学者をやっていたという、今は亡き父親がつけたたった一つの形見でもある。


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