お金より体力が大事?
誘惑の6か月
小花がアメリカへ出発してから2週間が過ぎた。

電話もメールもやりとりがない日々が続く。



「きついな・・・。
ここまで徹底されてると。

まだ差し障りのない返事でもあったメールのやりとりが懐かしくなる。」


幸鷹はもどかしい気持ちでいっぱいだった。
婚約解消したつもりもなかったが、何もかも宙に浮いたままで小花がいないというのはつらかった。

まだ、嫌々でも自分が許可を出して小花が取材へと出かけているなら電話やメールのやりとりだってできるはずなのに、完全になしのつぶては心にこたえるばかりだった。



そんなとき、新しい秘書の面接に幸鷹も立ち会ってほしいと営業部長から命令を受けた。

女性スタッフが4人ほど出産を控えて退職したが、ひとりは秘書だったのである。


候補者は5人までしぼられて、最終審査に幸鷹も出席することになった。


5人の中で気になることを言った女性がいた。



「北川ゆかりです。私は樋川幸鷹さんのファンです。
樋川さんの会社のポスターにひかれて会社を受けにまいりました。」


「オリンピック前に出場かなわなくなった男を見に来たのかい?」


幸鷹は少し意地の悪い質問をなげかけた。


「そうですね。私にとってはべつにそんなものはどうだっていいんです。
以前は以前のよさがありましたし、今は今のよさがあります。

腐ってしまって現在が何も使い物にならないって人ではないんでしょう?
今はきちんと選手でない道を歩んでおられるじゃないですか。
興味をひかれたのも事実、仕事の上で一緒に働きたい人であるのも事実です。」



「ほぉ。未来だけを見てがんばるというんだね?」


「そうです。ポジティブに仕事したいですから。」


「よくわかりました。」



幸鷹と会話をかわしたのはそんなところだったが、会社役員たちが経歴その他でいろいろ質問を投げかけていたが、難なく返答し、結局彼女は採用になった。



「新しい宣伝ポスターだが、女子の体操の注目株の選手の協力を得ることができそうだ。」


「男性の顧客狙いですか?」


「そうだ。最近、男性会員の数が減ってきているので、体力づくりをする男性に増えてもらわないとね。」


幸鷹は宣伝の仕事も板について精力的にやるようになっていた。

そして北川ゆかりは幸鷹のいる宣伝部の秘書としてがんばっている。



「ふう・・・大手会社の会員さんからも声をかけてもらってなんとか最低ラインの男性顧客はつきそうですね。」


「おつかれ。ポスターを発行するだけでは会員は増えないからね。
それこそ、アイドル並みの握手会だとかサイン会でもやれば別だけど・・・」


「それいいじゃないですか。握手会。
ポスターの女性に声をかけてみましょう。」


「だめだ。」


「どうしてですか?」


「相手はアイドルじゃない。アスリートなんだぞ。
試合の前はとくに気がたってるし、雑誌のインタビューでも遠慮してもらっている時期に握手会どころじゃない。」


「そ、そうですよね。
では・・・現役を離れた人ならどうですか?

たとえば、そう・・・樋川さんとか。」


「俺?」
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