「おはようございまーす」
光恵はノートパソコンを片手に、声を張り上げた。


久しぶりの稽古場。廃業になった町工場をリフォームした、天井が高く広い空間。初夏の日差しの中に埃がふわふわ舞っているのが見える。


「よお、おはよう! できた?」
大きな鏡の前で胡座をかいていた劇団長兼監督の三池が、光恵の顔を見てとびきりの笑顔を見せた。


「はい。言われたところを手直しして、今日持ってきました」
光恵は、細長い会議机の上にコンピュータを置き、早速電源を入れて立ち上げた。


「オッケー、じゃあ配ろう。印刷かけて」
身体をほぐしながら三池が言う。


「はい」
光恵は頷いて、プリンタを起動させた。


三年前、大学を卒業して、この劇団に就職した。就職したと言えば聞こえはいいけれど、お給料と言えるものは本当に微々たるもので、舞台と舞台の合間にはバイトをしないと生活できない。光恵は教員免許を持っていたので、臨時の塾講師としても働いていた。正直、そちらの方がお金はもらえる。


光恵は小説家になりたかった。なんとか在学中に文学賞を取りたかったが、社会はそんなに甘くない。就職活動をすべきかどうか迷っている時、この劇団が脚本家を募集していた。脚本を書いたことはなかったが、「認められたい」ただその気持ちで応募し、奇跡的に採用されたのだ。


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