「はい、コレ」
稽古場に入って来た孝志に、光恵はお弁当箱を手渡した。


「わ! 手作り弁当だ」
孝志は目をかがやかせてお弁当箱を開けたが、すぐにどんよりと暗い顔になった。


「これ……野菜ばっか」
「お肉もあるよ。ほら、コレ」


光恵はいくつかのゆでた鶏ささみを指差した。


「うまいの?」
「まあ、それなりに」
「ふうん」


孝志は感謝の言葉もなく、ロッカーに自分の荷物を置きに行く。その背中はあまりにも哀れで、光恵は少々同情した。


ジャージに着替えた孝志を捕まえて、光恵はこれからのダイエットプランを説明し始めた。


「規則正しい生活をすること。
一日の摂取カロリーは1600kcal。
運動は柔軟体操と筋トレ。それから有酸素運動ね」


「うん」
「わたしが渡すもの以外は口にしちゃ駄目。お水はたくさん飲んでいいよ」
「うん」
「幸い家が近いから、運動は付き合ってあげる。朝と夜のランニング」
「ミツも走るの?」
「ううん、わたしは自転車」
「ずるぅ」
「舞台成功のためだから、気合い入れて」
「わかった」


孝志は頷くと、役者の輪の中に入って行った。光恵がほっと息をついてから振り返ると、三池が腕を組んで笑っている。


「孝志を餌付けしてんの?」
「ダイエットさせてるんです。昨日の夜、ここで倒れてたんですよ。お腹減りすぎて」


光恵がそう言うと、三池は「お前みたいなのがいたほうが、あいつにはいいかもな」と頷いた。

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