豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


どうしよう、どうしよう、どうしよおおおおおおおお。


孝志はベッドの上で、もう何度も読んでぼろぼろになった台本を取り出し、読み始めた。台詞を口に出してみる。主人公が自分のなかで呼吸をしている、そう思っていたのに、今はもう、どこかへ行ってしまった。


ミツを失いたくない。手にいれたら、入れたで、野島に奪われるかもしれない恐怖で気が狂いそうだ。光恵の理想の男にならなくてはいけない。こんな初日四日前に、大慌てで叫んでるところなんか、見せられない。


俺から芝居を取ったら、何が残るんだ?


ベッドの上で台本を読みながら、もんもんとしていると、携帯が鳴りだした。孝志は息を深く吸って、気持ちを落ち着ける。それから電話にでた。


「もしもし?」
「孝志?」


ゆうみだった。


「どうした?」
「今まだ稽古場にいるんだけど」
「そうか、遅くまでおつかれさま」
「申し訳ないんだけど、迎えにきてくれる?」
「いいけど……志賀さんは?」
「実は一度送ってもらってホテルに帰ったんだけど、どうしても気になって一人で稽古場にきちゃったんだ。だから……」
「わかった、すぐ行くよ」


孝志は車の鍵を手に、急いで部屋を出た。


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