豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


どうしたんだろう。
いや、理由は分かってる。
舞台に孝志がいないから。


思えば、光恵は舞台を飛び回る孝志を想像して、これまで作品を書いて来た。彼が輝くように、彼が引き立つように。主人公のキャラクターは、彼のふとした仕草や、言葉からヒントを得ていた。


孝志の抜けた今、どうやって作品を書けばいいのか、さっぱりわからない。
光恵は再びビールを飲んだ。おいしくもなんともない。


テレビでは、これから始まるドラマの予告が流れている。孝志が「ご期待ください」と光恵に話しかけた。


誰だこいつ……。


そこに「ピンポーン」とチャイムの鳴る音がした。


アマゾンかな? 
今日届くって言ってたかも。


光恵は「はあい」と声をあげて、玄関の鍵を開けた。


「ミツ、久しぶり」
大きくふくらんだ男が、手をあげた。


光恵は眉間に皺を寄せて、その男をまじまじと見る。


帽子を深くかぶり、眼鏡をかけている。
頬はまあるくふくらんでいて、その手はまるでクリームパンのようにふかふかしている。



誰? このデブ……。


< 28 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop