舞台に向けての活動がスタートしてから一週間。


脚本家の仕事は、台本を配って終わりではない。実際に役者達が舞台に立つと、いろいろと変えたいところが出てくる。まるまる一章書き直し、ということも当たり前だった。


最初は、なんだか作品の駄目出しをされているようで悲しかったが、徐々に理解してしてきた。
脚本は舞台を完成させるための一部分でしかないのだ。すべてが絶妙な加減で調和され、人を魅了する舞台となる。


光恵は稽古場への道を急いでいた。


見上げると薄い月。若葉の香りと虫の声。東京の端のこの場所では、不思議なことにまるで田舎にいるような気分にさせられる。


光恵は故郷を思い出し、思わず笑みを浮かべた。


今日は自分のアパートで台本の改訂をしていた。


夢中で書きながらふと、稽古場に修正用のメモを置いて来てしまったことに気づいたのだ。これから書こうとしている部分には必要なもの。


すでに夜の十一時で、今日の練習はとっくに解散していたが、光恵は稽古場へ行くことにした。


狭い住宅街を抜けて、稽古場へと辿りつく。街灯も暗く、人通りも少ないので、稽古場が目に入るとほっとした。


見上げると、屋根付近の窓から明かりが漏れている。まだ誰かいるのだ。


「おつかれさまです」
光恵は声をかけて、重い扉を開けた。


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