甘い唇は何を囁くか
第5章「2度目の」
レストランで出された、美味しそうなパスタを写真に収めている時にそれは起きた。

こっちはそのパスタの味をいかにして画面上に引き出すかを模索していたって言うのに、その輩は遼子の特別な時間をいとも容易く引き裂いた。

「お前日本人だろ、一人か?」

一人は黒人。映画に出て来るような長身でスキンヘッドの男の人。

「こんな所に一人で来るって、バカじゃね?」

もう一人は白人。絵に描いたような悪者コンビという風情で、言った言葉は英語。

頭の中で和訳すると、恐らくそう言われたのだろうと思う。

こういうのは相手にしないに限ると本に書いてあったことを思い出す。

こんなに大勢の人が居るところで、ついてさえいかなければ相手も何かすることはできないと分かっているから、平然と再びパスタに向かいカメラを向ける。

「おいおい、お嬢ちゃん無視はないだろ?」

「俺たちみたいな悪者だって傷ついちゃうぜ?」

クスクスと下卑た笑みを浮かべて言う。

ある程度、英語は勉強してきちゃったからこういうフザケた言葉の意味が理解できてしまう。

と、いうより言葉なんか理解できなくったって、言い方で分かるか。

遼子は冷ややかに顔も向けずに言った。

「店員を呼びますよ?」

英語で。

男たちは、更にお下劣な言葉を吐いて立ち上がる。

「アバズレが、いい気になるなよ。」

たぶん、的な暴言だろう。

分からないということはある意味、平和的。

怒りも半減するというものだ。

それにしても、ここに来てもうそろそろ1週間。

たぶん、こういうこともあるだろうとは思っていたけれど、想像通りで萌えない。

アイスティを喉に注いで、ようやくパスタを口に入れた。
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